医療法人の設立
医療法人とは、医療法において次のように定義されています。
「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団 」(39条1項)
医療法人化とは、「医療法人を新設」して、現在の個人事業主として経営している「診療所を廃止」するという二つを行うことになります。
この「医療法人の新設」には、申請から認可まで約6カ月もかかる上に、必要な書類や資料が大量に必要となります。その上、医療法人化により、様々な手続きも増えることになるなど、個人医院と大きく変わることがあります。こんなつもりではなかった・・・と後悔することのないように、今後の事業展開、相続対策、後継者の有無など総合的に判断する必要があります。
医療法人のメリット
医療法人にすると、個人事業主と比べて様々なメリットを得ることができます。
- 節税効果が高い
- 分院や介護事業所など複数の事業所を経営できる
- 融資を受けやすくなる
- 優秀な人材の採用・確保が容易になる
- 退職金を受け取れる
- 事業承継の手続きが容易になる
- 相続対策ができる
- 債務責任が有限となる
医療法人のデメリット
医療法人化によるデメリットとしては、以下のことが挙げられます。
- 医療法人化のために複雑な手続きが必要となる
- 医療法人化後の事務手続きが煩雑
- 社会保険、厚生年金の加入が必要になる
- 解散が容易にできなくなる
- 利益配分ができなくなる
医療法人の区分
医療法人には、以下の2種類に大別されます。
社団医療法人 | 病院や診療所などを開設する目的を持った人が集まり設立された医療法人 |
財団医療法人 | 個人または法人が、無償で寄付した財産に基づいて設立された医療法人 |
現在、約60,000件の医療法人がありますが、その99%以上を社団医療法人が占めています。
社団医療法人は、「持分の有無」という観点から、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」に区別されています。
「持分」とは、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」のことで、医療法人化の際に出資をした人の持分割合を言います。そのため、退職や引退、死亡した出資者に対して持分の支払い義務が生じると、最悪の場合、医療法人を解散しなければならない事態に陥ることがあります。
平成19年以降、「持分あり医療法人」は設立できなくなりました。そして、現存する「持分あり医療法人」は、「持分なし医療法人」へと移行が進められています。
また、これらの医療法人同士の合併や吸収なども別途設定されています。
持分なし医療法人 | 社会医療法人 | 平成19年施行の第5次医療法改正により新設された類型で、都道府県知事の認定を受け、法人税や固定資産税が非課税などの税制上の優遇措置を受けることができる医療法人 |
---|---|---|
特定医療法人 | 租税特別措置法に規定され、国税庁長官の承認を得ることで法人税の軽減税率が適用されるなどの税制上の優遇措置を受けることができる医療法人 | |
基金拠出型医療法人 | 活動の原資となる資金の調達手段として、基金の制度を採用している医療法人 | |
一般の持分なし医療法人 | 上記以外の医療法人 | |
持分あり医療法人 | 出資額限度法人 | 払戻し又は残余財産の分配額について、払込出資額を限度とする旨を定めている社団医療法人 |
一般の持分あり医療法人 | 平成19年施行の第5次医療法改正により、新規設立はできなくなった。 既存の持分あり医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられており、「経過措置医療法人」と呼ばれる。 平成26年施行の医療法改正により、持分なし医療法人への移行につき、厚生労働大臣の認定を受けた経過措置医療法人は、「認定医療法人」と呼ばれる。 |
個人医院と医療法人
個人医院と医療法人では様々な違いがあります。
個人医院 | 医療法人 | |
---|---|---|
手続き | ・診療所開設届出 ・開設後に各種届出 | ・都道府県の認可 ・設立登記手続き ・設立後に各種届出 |
施設数 | 1か所のみ開設可能 | 分院、老健、診療所などを複数の開設可能 |
業務範囲 | 病院、診療所、歯科医院 | 病院、診療所、歯科医院、老健、特養など |
退職金制度 | なし | あり |
登記手続き | 不要 | 必要 |
収入 | 売上から経費を引いた残りが所得となる | 役員報酬を規定する |
社会保険 | 5人以下の場合は加入義務なし | 加入義務あり |
立入検査 | なし | 定期的にある |
債務責任 | 無限 | 有限 |
事業承継 | 相続税や贈与税が課される | 理事長の変更のみ |
一人医師医療法人とは?
一人医師医療法人とは、「常勤する医師または歯科医師が1人または2人の診療所を開設している医療法人」を言います。法的な正式名称ではなく、通称です。ただし、設立、運営、権利及び義務に関して、上記の社団医療法人と変わりません。
昭和60年12月の医療法改正により、医療法人設立のために必要だった「医師もしくは歯科医師が3人以上勤務している」という条件がなくなったことにより認められました。
現在、医療法人全体の8割程度を占めています。
医療法人 | 一人医師医療法人 | |
---|---|---|
出資 | 不動産はできる限り出資する。 土地・建物の両方を出資できないときはどちらか一方を出資。 | 不動産は出資が望ましい。 賃貸借契約が10年以上である場合には賃貸でも差支えない。 |
資産 | 自己資本比率20%以上。 2ヶ月分以上の運転資金が必要。 | 2ヶ月分以上の運転資金が必要。 |
出資財産 | 未収金は出資する。 | 未収金は出資する。 |
一人医療法人の設立要件
一人医師医療法人を設立するためにはいくつか要件があります。
人的要件 | 理事-3名以上 「一人医師医療法人」の場合は、1名、または2名の理事でも良い |
理事長-1名 理事のうち医師または歯科医師1人から互選 | |
監事-1 人以上 ただし、法人の利害関係者や理事の親族などは就任できない | |
社員-3名以上 株式会社でいう株主に近いものであり、従業員とは異なる 出資は必須ではなく、出資しないでも社員となれる | |
施設要件 | 診療所などを開設する土地や建物 しかし、10年以上の長期契約であれば問題ない |
資産要件 | 2カ月分の運転資金があること 個人時代の設備を買い取る資金があること 不動産、借地権、預貯金 医薬品、医療用器械、備品 ただし、運転資金は法人へ引き継げない |
医療法人の設立申請
医療法人設立は、都道府県により申請の時期や申請先が異なります。
事前登録から医療法人まで半年、さらに法人診療所開設までになると10カ月以上もかかります。
そのため、設立を希望されるお客様と行政書士は、協力しながら二人三脚で進めていくこととなります。
大阪府の場合
病院、診療所及び介護老人保健施設などすべての事業を大阪市内のみで行っている医療法人は、大阪市保健所が窓口となります。
大阪市以外に1か所でも事業所を設けている医療法人につきましては、大阪府が窓口となります。
下表は、大阪府のホームページからの抜粋です。
大阪市の場合も、似たようなスケジュールとなります。
スケジュール | 1回目 | 2回目 |
---|---|---|
1.設立事前登録 | 5月初旬から5月下旬 | 11月初旬から11月下旬 |
2.設立(医療法人制度等)に関する説明(動画視聴) | 6月中旬から6月下旬 | 12月中旬から12月下旬 |
3.仮申請書類の提出 | 7月初旬から7月下旬 | 1月初旬から1月下旬 |
4.仮申請書類の審査 | 受付後から9月中旬 | 受付後から3月中旬 |
5.本申請書類の提出 | 10月の土日祝を除く 月初日 | 4月の土日祝を除く 月初日 |
6.大阪府医療審議会への諮問 | 11月中旬から11月下旬 | 5月中旬から5月下旬 |
7.設立認可 | 1月上旬 | 7月上旬 |
8.認可書交付・法人運営と今後の手続きについての説明 | 1月上旬 | 7月上旬 |
9.法人診療所開設 | 3月1日 | 9月1日 |
兵庫県の場合
大阪府、大阪市と同じようなスケジュールになります。
申請書(案)提出期限 | ヒアリング | 県医療審議会での審議 | 設立認可 | 設立登記 |
---|---|---|---|---|
毎年5月末 | 7月~8月頃 | 11月頃 | 12月頃 | 1月頃 |
毎年9月末 | 12月~1月頃 | 2月頃 | 3月頃 | 4月頃 |
ヒアリングは、提出した申請書(案)の事前審査を経て、2回実施されます。そのうち1回は、理事長となる予定の医師または歯科医師の方にも出席が必要となります。
京都府の場合
京都府は、申請の時期が年4回に設定されています。
① | ② | ③ | ④ | 必要な手続き |
---|---|---|---|---|
1月 | 4月 | 7月 | 10月 | 下旬 (1)エントリー (概要書及びヒアリング日程調整票提出) |
2月 | 5月 | 8月 | 11月 | 上旬 (2)1回目ヒアリング 中旬 (3)2回目ヒアリング |
3月 | 6月 | 9月 | 12月 | 1日 (4)申請書の提出 中旬 (5)医療審議会の諮問 下旬 (6)認可書手渡し(翌月1日設立登記予定) |
医療法人の設立まで
1
設立事前登録
設立認可申請を予定している場合は必ず事前登録が必要になります。
2
申請書類の作成
必要書類をそろえて、定款や契約書など様々な申請に必要な書類を作成します。
3
設立総会の開催
設立者3名以上による設立総会を開催して、議事録を作成します。
4
申請
大阪府などは、本申請の前に、仮申請を行います。
仮申請書類の審査が通った場合に、本申請に進めることができます。
5
諮問(ヒアリング)
理事長など申請者の面談審査や実地審査などが行われます。
6
認可
審査を通過すると、「設立認可書」が交付されます。これにより、医療法人設立の認可が出たということになります。
7
設立登記
設立認可書の受領後2週間以内に登記を行います。
登記されることで、医療法人が成立します。
設立後の各種届出
医療法人が設立した後も、必要な届出などの手続きがあります。
- 診療所等開設許可申請書
- X線設置届
- 診療所開設届
- 保健医療機関指定申請
- 麻薬施用者免許申請
- 難病医療費助成指定医(難病指定医(協力難病指定医)指定申請
- 指定医療機関指定申請
- 労災指定医療機関等登録申請
- 被爆者一般疾病医療機関指定申請 一般疾病医療
- 生活保護法指定医療機関指定申請 生活保護
- 夜間・早朝等加算届
- 時間外対応加算届
- 明細書発行体制等加算届
- 機能強化加算届
- 外来後発医薬品使用体制加算届
- 胃がん検診及び胃がんリスク検診精密検査実施医療機関申請
- 医師届出票
- 保健師・助産師・看護師・准看護師業務従事者届
- 通行禁止除外指定者標章交付申請